動物の保護に繋がる動物の移動を

動物の保護に繋がる動物の移動をコラム

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5種類の移動

「○○動物園からきた○○です。」「オスの○○は、○○動物園に移動しました。」

そんな文字を動物園の動物紹介の看板やホームページ、SNSで目にしたことがあるのではないでしょうか。「このトラ、私と同郷だ!」とか「このゾウって昔、あそこの動物園で見たゾウだ!」とか、動物園をより楽しむためのきっかけにもなります。

実はこの動物園の間での動物の移動は大きく分けて5種類あるのです。それでは、一つずつ解説していきましょう。

「譲渡」


動物たちの移動で最も多いのがこの譲渡です。スペースの関係で飼育しきれなくなってしまったり、動物園自体が閉園してしまったりした場合に動物の引き取り先を探します。一方で、新たな動物種を増やそうとしたり、飼育している頭数が減ってしまったりしている動物園があるのです。そういった時に、動物を譲るという仕組みです。最近では、2020年3月を持って閉園した大阪の「みさき公園」の動物たちが隣県の和歌山県にあるアドベンチャーワールドや全国の動物園や水族館に譲渡されました。園同士で連携をとることで、動物たちが行き場を失わないように守っています。

「寄贈」

無償で動物が移動するという形式は、譲渡と同じです。しかし、言葉が違うことによって大きく意味合いが異なります。国同士の交流や友好の証として、動物園に贈られるということです。古くは、1935年にタイの少年団からゾウが上野動物園に贈られています。

「購入」

事例としてはあまり多くはありません。無償で譲り受けることができない場合には、購入という方法がとられることがあるようです。もちろん、お金があればすべてが解決するというわけではありません。法律などで売買が禁止されている動物は取り扱うことができません。

「交換」

譲渡の次に多い方法が交換です。同じ動物種同士を交換することもありますし、両園の考えが一致すれば、違う動物同士や違う頭数での交換をすることもあります。シマウマ1頭とライオン2頭の交換という事例もあります。

「ブリーディングローン」

最後に紹介するのが、「ブリーディングローン」です。「ブリーディング=breeding(繁殖)」という言葉に、「ローン=loan(貸し)」。つまり、「繁殖目的のローン」ということです。動物園や水族館同士で動物を貸したり借りたりする制度です。動物園や水族館の動物たちは、個々の園館のものではなく世界共有の財産という考えがあります。期間が終了すると元々いた動物園に帰ってしまいます(期間が延長される場合もあります)。

ブリーディングローン オカピ
ブリーディングローンが行われているオカピ

なぜ、移動が必要なのか?

来園者に楽しんでもらうために

さて、動物たちの移動の種類は分かりましたが、果たして「なぜ、動物の移動が必要なのか?」。

動物園に新しい動物が移動してくれば、多くの人はワクワクして見に行きたくなるものです。動物の移動は、動物園の活性化に繋がり、収益にも繋がります。また、行き場を失った動物たちをしっかりと管理することは動物園の責務です。これらの話は簡単な説明だけにさせていただき、今回は地球規模で動物の移動が動物の保護に繋がるということついてお伝えしたいと思います。

新たな出会いが必要

まずは、繁殖をして個体数を増やすことが必須です。特に絶滅の危機に瀕している動物種は数を増やして、その動物を残していかなくてはなりません(もちろん皆さんがいつもの動物園でその動物を見れなくなって寂しくならないようにということもあります)。

遺伝子が近い個体同士で交配をすることで、病気や先天性の異常が生じてしまうことがあります。動物園の動物たちにとっては、人為的に移動をさせてあげない限り、素敵なパートナーに出会うことができません。他の動物園から新しい血統を入れることで、近交劣化を防ぐことができます。近交劣化を防ぎ、丈夫な子孫を残すためにも、新たな出会いがとても重要です。

パートナーとの出会いは、動物にはとても重要

分散することが必要

次に、動物たちの病気や感染症による「絶滅」を避けるためです。少し極端な例えになりますが、とある園である動物が一斉に不治の病にかかってしまったとします。そんな時、日本中や世界中の動物園や野生を探しても“そこ”にしかいなかったら。次々に死んでしまい、ついには、最後の一頭がいなくなって、絶滅してしまいます。

さらに、病気以外にも台風や地震などの自然災害も避けて通ることはできません。これらの絶滅の危機から逃れるためにも、日本中や世界中の動物園に分散させておくことが必要になります。

これが「分散飼育」という工夫です。動物園での絶滅危惧種の飼育はもちろんのこと、佐渡島のトキも鳥インフルエンザから守るため分散飼育が行なわれています。

日本で一頭のモウコノロバ「ミンミン」

世界の動物のために必要

そして、動物園の大切な役割である「種の保存」に繋がってくるのです。「種(しゅ)」とは、動物の種類のことです。もちろん、絶滅してしまった種は、現在の科学技術では二度と戻すことはできません。モウコノウマやシフゾウのように野生の個体は絶滅したけど、動物園で暮らしていた個体がいたおかげで絶滅していない動物もいます。世界中から「種」が消えてしまわないように、動物たちを移動させる必要があるのです。数を減らしている希少動物を次世代に伝えて残していく、というリレーをしているのです。

動物の絶滅の原因は、生息環境の破壊・悪化、乱獲、外来種による影響と、人間の生活が大きな影響を与えていることに違いはありません。そして、皮肉なことにその動物たちの絶滅を食い止める努力をしているのも人間なのです。

はく製でしか見られないなんてことにならないように…

動物、地球環境を守ることにつなげたい

動物園で目にする「珍しい動物」というのは、生息地が限られているか、生息数が少ないか、人目につかないところで暮らしているかということです。それらの動物を動物園で見ることができるのはもしかしたら私たちのエゴなのかもしれません。しかし、その動物を通し、地球環境や生き物について考える機会を得られるのであれば、その動物を見ることはとても有意義な経験となり、動物への恩返しにもつながることでしょう。

最近、WWFジャパン(世界自然保護基金ジャパン)のあるキャッチコピーで「かわいいは、守りたいのはじまり」というものを目にしました。まさにその通りだと感じました。小さな子どもたちは動物を見て、かわいいとか、面白いとか興味をもってくれればいいと思いますが、小学生、中学生・・・大人と成長していく過程でいつまでも、ただ「かわいかった」で終わらせてほしくはないと思います。少しでもいいので、動物園のもうひとつの大切な役割である「教育」の要素を散りばめて、動物たちを絶滅から守ることにつなげなくてはならないのです。そのきっかけとなる道を作れる一番の立役者は動物園なのかもしれません。

最後に

動物の移動は私たちにたくさんの興味やワクワク感を与えてくれるものです。もちろん来園者に楽しんでもらえることは重要なのですが、それだけではなく動物の移動が動物の保護に繋がることを私も望んでいます。

「珍しい動物が近くの動物園に来てくれた」「赤ちゃんが生まれてかわいい」など嬉しいニュースの裏側には、動物園の人たちの「動物を命を、そして絶滅から守る」という壮大な計画があるのかもしれません。

動物園の動物が移動したときに今回の話を少しでも思い出して、ほんの少しでもいいので地球や自然環境、動物たちの未来について考えてもらえれば幸いです。

 

この記事を書いた人
小林 範史

東京農業大学在学中には、馬を中心とした動物介在療法や動物介在教育を学ぶ。現在、株式会社Animal Life Solutionsで勤務し、馬や小動物(モルモット・パンダマウス)の飼育員として、動物の飼育管理やふれあい体験のイベント運営を行う。スポーツ観戦好きの新米ライター。

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